蛍光X線分析装置(XRF : X-ray Fluorescence Spectrometer)は、製品の検査情報をリアルタイムで提供し、続く工程へのフォローを容易にする非破壊分析技術です。原理は、高エネルギーのX線やガンマ線を試料に照射すると、内殻電子が励起され、高エネルギー光電子となります。これにより、空孔が生じ、この内殻の空いた電子の位置を埋めるために、外殻の電子が移動します。エネルギー準位の差によりX線が放出され、これを蛍光X線と呼びます。
XRFは、特に金属、ガラス、セラミックス、建材などの元素・化学分析に適しています。また、地球化学研究、法医学、電子製品の品質管理(EUのRoHS指令への対応など)、考古学などにも適しており、すでに非破壊の元素分析として一般的に使用されています。以下の実際の分析事例から、このツールがさまざまな分野で広く利用されている理由をご理解いただけると思います。
PCBの組成分析 |
人々の生活をより便利にするために、電子製品の開発は常に「軽く、薄く、短く、小さく」するという目標に向かって進んでいます。その中で、プリント基板(PCB)は、電子部品を支える魂ともいえる存在です。電子機器をより効率的に働かせるだけでなく、5G/6G、AR/VR、メタバースの未来への道を切り開く重要な役割を担っているのです。
XRFを使用してPCB表面の特定領域の元素とその濃度を測定することは、PCB製造プロセスの重要なステップです。プリント基板の銅表面には、銅の酸化を防ぐために表面処理(ニッケル置換金メッキめっき、電解金めっき、錫溶射など)を行う必要があります。下図は、XRFで得られたPCB表面の銅箔の光学像です(図1左)。このようにして、Ni、CuおよびAuの濃度を測定することができます(図1下表)。スズ元素の画像は、6個のはんだボールのエリアをスキャンして得られたものです(図1中)。また、1個のはんだボールのSn Kαエネルギースペクトルも見ることができます(図1右)。
図1 PCBの光学像(左)、XRFマッピング(中)、XRFスペクトル(右) |
金属膜厚の測定 |
PCBのゴールドフィンガーは、カードスロットのピンと接触することで外部コネクタと接続します。このゴールドフィンガーの表面には、多くの場合、耐摩耗性を高めるために電解ニッケル-金めっきが施されています。一般的に言えば、金層の厚さは、電子製品の電気伝導の問題を引き起こす要因となる可能性があります。図2は、XRF測定によって得られた、PCBのゴールドフィンガーの5つの異なる位置における、表面Au層と下部Ni層のそれぞれの厚さと平均値を示しています(表2)。
図2 PCBのゴールドフィンガーの光学像(下図) |
表2 金とニッケル層の厚さ |
RoHS有害物質試験 |
環境意識の高まりから、電子製品はEUのRoHS(特定有害物質使用制限)に準拠し、Cd、Pb、Hg、Cr6+、PBB、PBDEなどの有害物質の濃度が一定の仕様内に収まるようにすることが求められるようになりました。XRFは、国際電気標準会議(IEC)により、RoHSテストの高速スクリーニング機器として推奨されています。
下図は、PCBとMEMS部品のRoHS試験結果をそれぞれ示しています。PCBで測定された6種類の有害元素はすべて規定値内であり(図3)、この部品は適格と判断できます。一方、MEMS部品は、金属外装のクロムの測定値が許容値を大幅に超えているため(図4)、不適格と判定されました。
Figure 3 The PCB’s ROHS Test Results |
Figure 4 The MEMS’s ROHS Test Results |
アンティークの鑑定 |
XRFは分析する試料を壊さないので、考古学の研究によく使われます。例えば、青花磁器の分析です。青花磁器の製造工程では、着色顔料としてコバルト鉱石(酸化コバルト)を使用します。高温で焼成すると、磁器には模様が現れます。磁器の模様の位置を蛍光X線分析(図5)することで、鉄とコバルトの組成を知ることができます(図6)。顔料の組成比は王朝ごとに変化しているので、元素組成や濃度から青花磁器の時代に作られた作品かどうかを判断し、骨董品としての真偽を確かめることができるのです。
図5 青花磁器の光学像 |
図6 Fe元素とCo元素のマッピング図 |
蛍光X線分析には幅広い用途があり、分析に使用する機器もポータブルタイプのものがあります。つまり、高価なサンプルや取り扱いが難しいサンプルでも、その場で迅速に検査できます。また、製品の認証だけでなく、各種規制などで必要とされる材料規格の検査にも利用することができます。急速に発展する今日の半導体産業において、XRF技術はICの内部欠陥の迅速な検査や、金属膜やコーティングの厚さの分析を可能にし、製品の歩留まり向上に不可欠なツールとなっています。
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