FIB(集束イオンビーム)は、試料の指定された位置に選択的なミリングを行うために、電子よりもはるかに大きな質量をもつガリウム(Ga)イオンやキセノン(Xe)イオンを用います。イオンボンバードメントやスパッタリングにより、試料のピンポイント加工や切断を行うことができます。 |
走査電子顕微鏡(SEM)の電子銃を備えた「デュアルビームシステム」または「DB-FIBシステム」では、イオンビームによる加工と電子ビームによる観察の両方が可能になります。DB-FIBの特徴である「リアルタイム分析」機能により、試料の加工から観察までの時間を短縮し、分析に要する時間を大幅に削減することができます。
DB-FIBシステム |
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高度な分析例I SIM像 — 試料表面の結晶粒界を鮮明に表示 |
イオンは荷電粒子であるため、静電レンズで集束することができます。集束したイオンビームを用いてサンプル表面を走査することで、SEMのようなイメージングを行い、表面の形態を観察することができます。異なる方位を持つ結晶粒に対して、入射イオンの侵入深さがイオンチャネリングにより異なるため、結晶方位の違いによるコントラストを得ることができます。このようにして、試料表面の結晶粒界を確認することができます
下の図は、銅多結晶のSIM像とSEM像の違いを示したものです。イオンビームを走査するSIM像では、結晶粒界がはっきりと見えています。一方、電子ビームを走査するSEM像では、結晶粒界はあまり明瞭ではありません。
SIM像 |
SEM像 |
高度な分析例II ガスアシストエッチング — サンプルへのマイクロエッチングにより差異を強調 |
FIBには、試料を切削して画像を得るだけでなく、もうひとつ強力な機能があります。FIB回路修正(FIB-CKT)です。IC業界では、回路設計の変更に伴う検証前の段階で多く使用されます。新しいバージョンのマスクを再作製するための研究開発コストを削減することができます。
その原理は、有機金属の前駆体ガスを試料の表面に流し、イオンビームで前駆体の有機結合を切断するというものです。それにより、導電性の金属配線が形成され、さまざまな回路修正のニーズに対応することができます。FIBの技術的原理と応用例については、 [ FIB技術の原理] をご覧ください。
金属配線の成膜には、有機金属錯体のほかに、腐食性のアシストガスを導入することができます(I2、XeF2など)。このような腐食性ガスを導入する本来の目的は、回路修正時に金属や酸化物のエッチング速度を上げることですが、選択的なエッチング特性を持つガスを導入することで、IC部品の断面の切り出しに役立てることもできます。また、試料の表面にマイクロエッチングを行い、画像のコントラストを高める染色(Junction Staining)のような効果を得ることもできます。
次の図は、アシストガスのXeF2を使って、サンプルの表面を選択的にエッチングしています。ポリシリコンが除去されると、目的の部分の構造がよりはっきりと観察できるようになります。これと同じ仕組みで、金属や酸化物に選択性の高い他のガスを選択して、対象部分のコントラストを高めることもできます。これは故障解析において、対象となる構造の微妙な違いを見る際に極めて有効です。
エッチング前 |
ポリシリコン領域のXeF2ガスマイクロエッチング後 |
高度な分析例III カーテン効果の解消 — 画像解釈ミスの低減 |
カーテン効果とは、FIB加工後、試料の断面の下半分にイオンの入射方向と平行なすじが現れることをいいます(下図左)。加工面の上にある異なる材料(金属層や酸化物層など)が、イオンミリングの不均一なエッチングレートの影響を受けて、特定の方向にすじが入ってしまいます。見栄えが悪いだけでなく、解釈にも問題が生じることがあるため、これらを除去する必要があります。
カーテン効果はイオン照射量などを調整することで改善できます |
一般的な改善方法は以下のとおりです。
- エッチングレートが不均一なエリアを避ける:場所を選べるなら、パターンの密なエリアは避け、代わりに疎なエリアを選択します。
- 試料表面に保護層を設ける:試料表面に緻密な保護層を設けることで、イオンビームが異種材料に直接接触する際のエッチングレートの不均一性の要因を減らすことができます。
- イオンミリングレートの変更:素材の違いに応じて適切なミリングレートを選択し、柔軟に調整します。一般的な材料と、対応するミリングレートは下記の表を参照してください。
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高度な分析例IV シグナル解釈の注意 — 切削による飛散や埋め戻しに惑わされないために |
FIBを使ってイオンミリングを行っていると、材料の中に層間剥離の空洞が発生することがあります。空洞があると、切削時に空洞付近の材料が飛散し、再スパッタリングや空洞への再堆積が起こることがあります。その結果、穴の縁に同じ組成の残留物の層が観察されます。
例えば、下の写真の左は、中空構造を含む断面図です。穴の上にはガリウム(Ga)があり(下図中)、穴の下には銅(Cu)が存在します(下図右)。これらは、加工時の埋め戻しによって穴の周囲に堆積しています。そのため、これらの物質が最初から存在していたと誤解され、分析結果から誤った推論をしてしまうことがあります。
このようなデータは、適切な考察ができる経験豊富なエンジニアが注意深く検査する必要があります。また、接着剤や、ターゲットとは組成が大きく異なる既知の材料であらかじめ空洞を埋めることができる場合もあります。これにより、埋め戻し効果によって解釈が影響を受けることを避けることができます。
試験片の断面にある中空の穴の縁に付着した加工時の埋め戻し |
試料の前処理や観察を行うツールを医療に例えると、その中でFIB(集束イオンビーム)は繊細で低侵襲な外科手術に例えることができます。試料の狙った位置でのみ試料作製・観察を行うため、試料の元の形状が維持されます。このため、非常に多く用いられている分析技術です。他の試料作製・観察ツールを検討したい方は、 [ 試料の断面を観察する場合の試料作製・観察ツールの選び方」をご覧ください。].
今回ご紹介した4つの技術が、皆様がFIBをうまく活用し、分析ニーズを正確かつ効果的に解決する一助となることを願っています。